小柳隆郎
職業:総合清掃事業会社最高財務責任者 兼 WEBチーフディレクター
株式会社すかいらーく、株式会社KIREI produce、フリーランスグラフィックデザイナーを経て総合清掃事業会社でのWEB事業を担当。
現在は経営層の一人として加わり、清掃関係コラムを寄稿する事も精力的に行っている。
賃貸物件からの退去時、「掃除は面倒だけど、敷金はできるだけ多く返してほしい」と感じるのは自然なことです。
自分で掃除をすべきか、それともプロに頼むべきか、迷う方も多いのではないでしょうか。
実は、プロのハウスクリーニングは単なる出費ではなく、「敷金を守るための賢い投資」になる可能性があります。
退去時の掃除は、敷金の返還額に直接影響する重要なポイントなのです。
この記事では、プロの掃除が費用対効果の面でいかに優れているか、そして敷金を最大限に取り戻すための具体的な知識と行動指針を解説します。
目次
まず結論から言うと、プロのハウスクリーニングは敷金返還に大きな効果が期待できます。
なぜなら、自分では落としきれない「借主負担」と判断されやすい頑固な汚れを徹底的に除去できるからです。
これにより、高額な原状回復費用を請求されるリスクを大幅に減らせます。
具体的に、どのような汚れでどれくらいの経済的メリットがあるのか見てみましょう。
以下の表は、汚れを放置した場合に敷金から引かれる可能性のある推定額と、プロに清掃を依頼した場合の費用、そしてその差額(経済的メリット)をまとめたものです。
| 汚れの種類 | 借主負担となるケース(推定控除額) | プロ清掃費用(概算) | 純経済的メリット(控除回避額 – 清掃費用) |
|---|---|---|---|
| 油汚れ (換気扇・コンロ周り) |
特殊清掃費:3万円~5万円 部品交換:5万円~10万円以上 |
1.5万円~2.5万円 | 1.5万円~7.5万円以上のメリット |
| カビ (浴室・壁面) |
壁紙張替え:3万円~5万円 浴室特殊清掃:2万円~4万円 |
1.5万円~3万円 | 0円~3.5万円以上のメリット |
| タバコのヤニ (壁紙・天井) |
壁紙全面張替え (1K): 10万円~15万円以上 |
3万円~5万円 | 5万円~12万円以上のメリット |
| ペットの臭い・汚れ (壁・床) |
床材交換・特殊消臭工事: 10万円~30万円以上 |
3万円~8万円 | 2万円~27万円以上のメリット |
このように、数万円の清掃費用を投資することで、それを大きく上回る金額の敷金控除を防げる可能性があるのです。
プロの清掃がなぜ有効なのかを理解するために、まずは「敷金」と「原状回復」の基本的なルールを知っておくことが重要です。
このルールを知らないと、本来支払う必要のない費用まで請求されてしまうかもしれません。
敷金とは、賃貸契約の際に大家さんへ預ける保証金のことです。
家賃の滞納があった場合や、部屋を傷つけたり汚したりした場合の修理費用などに充てられます。
つまり、問題がなければ基本的には全額返還される「預け金」なのです。
しかし、退去時に部屋の状態が悪いと、原状回復費用として敷金から差し引かれてしまいます。
「原状回復」と聞くと、「入居時と全く同じ状態に戻すこと」と思いがちですが、それは誤解です。
国土交通省が定めるガイドラインでは、原状回復のルールが明確に示されています。
例えば、家具を置いてできた床のへこみや、日光で壁紙が色あせた場合は「通常損耗」と見なされ、大家さんの負担となります。
一方で、掃除を怠ったことで発生した頑固なカビや油汚れは、借主の責任と判断される可能性が高いのです。
また、壁紙の価値は6年でほぼ1円になるとされています。
そのため、7年以上住んだ部屋の壁紙を汚してしまっても、張替え費用を全額請求されるのは不当である可能性が高いと言えます。
具体的にどのようなケースが貸主負担で、どのようなケースが借主負担になるのか、表で確認してみましょう。
ご自身の部屋の状況と照らし合わせてみてください。
| 項目 | 貸主負担(通常損耗・経年劣化) | 借主負担(故意・過失、通常を超える使用) |
|---|---|---|
| 壁・天井 | ・画鋲やピンの穴 ・家具設置による電気焼け ・日照による変色 |
・タバコのヤニによる黄ばみ、臭い ・落書きや故意につけた傷 ・結露を放置して発生したカビ |
| 床 | ・家具設置によるへこみ、跡 ・フローリングの色落ち(日照) |
・引越し作業でつけた傷 ・飲み物などをこぼしたシミ(手入れ不足) ・ペットによる傷やシミ |
| キッチン | ・冷蔵庫裏の電気焼け | ・掃除を怠ったコンロ周りの油汚れ、焦げ付き ・シンクのサビ(手入れ不足) |
| 浴室・トイレ | ・設備の経年劣化による故障 | ・掃除を怠ったカビや水垢 ・鏡のウロコ汚れ(手入れ不足) |
これらの「借主負担」となりやすい汚れこそ、プロのハウスクリーニングで集中的にきれいにすべきポイントです。
プロに掃除を依頼するメリットは、敷金が返ってくるという金銭的なものだけではありません。
時間的・精神的にも大きなメリットがあります。
これは最大のメリットです。
先ほどの費用対効果の表で見たように、プロの技術で借主負担となる汚れを徹底的に除去できます。
これにより、貸主からの高額な原状回復費用請求を未然に防ぎ、結果として手元に戻ってくる敷金を最大化できるのです。
プロへの依頼は「支出」ではなく、「敷金を守るための投資」と考えることができます。
引越しは、荷造りや役所での手続き、ライフラインの契約など、やることが山積みです。
そんな多忙な中で、退去前の大掃除まで行うのは非常に大きな負担となります。
掃除という重労働をプロに任せることで、貴重な時間と体力を新生活の準備に集中させることができます。
プロの業者は、汚れの種類や素材に応じた専門的な洗剤や機材を使いこなします。
このような、市販の洗剤では歯が立たない頑固な汚れも、プロの技術なら見違えるほどきれいになります。
普段手が届かない場所まで徹底的に清掃してもらえるのも魅力です。
きれいに清掃された状態で物件を引き渡すことは、貸主や管理会社に良い印象を与えます。
これは、原状回復費用をめぐる不要なトラブルを未然に防ぐことにつながります。
業者によっては清掃作業完了後に「作業完了報告書」を発行してくれる場合もあり、これが円満な退去手続きのための「お守り」になることもあります。
多くのメリットがある一方で、プロへの依頼にはいくつかの注意点もあります。
デメリットと、その対策を事前に知っておくことで、安心してサービスを利用できます。
当然ながら、プロのサービスを利用するには費用がかかります。
この初期投資が、期待される敷金返還額の増加分を上回ってしまうと、経済的なメリットは薄れてしまいます。
そのため、自分の部屋の汚れ具合と、後述する費用相場を照らし合わせて、投資に見合う効果が得られるか検討することが大切です。
ハウスクリーニング業者は数多くあり、残念ながら技術力やサービスの質にはばらつきがあります。
料金の安さだけで選んでしまうと、「汚れが全然落ちていない」「追加料金を請求された」といったトラブルに発展する可能性もゼロではありません。
信頼できる業者を慎重に選ぶことが非常に重要です。
賃貸契約書の中に、「退去時のハウスクリーニング費用は、汚れの程度にかかわらず借主が負担する」といった特約が含まれていることがあります。
この特約がある場合、自分でプロに依頼しても、結局は契約に基づいた費用を別途請求される可能性があります。
ただし、このような特約は、消費者契約法に基づき無効と判断されるケースもあります。
まずはご自身の契約書をよく確認し、もし特約の有効性に疑問があれば、専門家や相談窓口に確認してみることをお勧めします。
最終的に、自分で掃除するかプロに頼むかは、何を重視するかによって変わります。
それぞれのメリット・デメリットを比較し、ご自身の状況に合った最適な選択をしましょう。
| 比較項目 | DIY清掃 | プロ清掃 |
|---|---|---|
| 費用 | ◎ 安い(洗剤代など数千円) | △ 高い(数万円~) |
| 時間・労力 | × 非常に負担が大きい | ◎ 大幅に節約できる |
| 清掃効果 | △ 専門的な汚れには限界あり | ◎ 非常に高い品質 |
| 敷金返還への影響 | △ 汚れが残ると高額控除のリスク | ◎ 控除リスクを大幅に低減 |
| 精神的安心感 | △ 不安が残る可能性がある | ◎ 安心感が大きい |
DIY清掃の最大のメリットは、費用を安く抑えられる点です。
しかし、引越し準備と並行して行う時間的・肉体的な負担は計り知れません。
また、専門的な汚れは落としきれず、結局敷金から高額な清掃費用が引かれてしまっては本末転倒です。
不適切な方法で掃除をしてしまい、壁や床を傷つけて修理費用を請求されるリスクもあります。
プロ清掃は初期費用がかかりますが、それを上回るメリットがあります。
時間と労力を大幅に節約できるだけでなく、専門的な品質で部屋をきれいにし、敷金返還の確実性を高めてくれます。
「きれいにした」という事実が、退去時の精神的な安心感にもつながります。
プロに依頼することを決めたら、次は信頼できる業者選びです。
以下のポイントと費用相場を参考に、複数の業者を比較検討しましょう。
費用は部屋の広さや汚れ具合によって変動しますが、一般的な相場は以下の通りです。
見積もりを取る際の参考にしてください。
| 間取り | 費用相場 |
|---|---|
| ワンルーム / 1K | 25,000円 ~ 45,000円 |
| 1DK / 2K | 30,000円 ~ 60,000円 |
| 1LDK / 2DK | 40,000円 ~ 75,000円 |
| 2LDK / 3DK | 50,000円 ~ 90,000円 |
| 3LDK / 4DK | 65,000円 ~ 110,000円 |
※上記はあくまで目安です。
※エアコン内部洗浄やベランダの高圧洗浄などは、オプション料金となることが一般的です。
最後に、掃除だけでなく、敷金トラブルを総合的に回避するための具体的な行動を紹介します。
入居時から意識しておくことで、退去時のトラブルを大きく減らすことができます。
トラブル防止の最大の鍵は「入居時の記録」です。
入居したらすぐに、部屋全体の傷や汚れ、設備の不具合などを、日付がわかるように写真や動画で撮影しておきましょう。
これが、退去時に「元からあった傷だ」と主張するための強力な証拠になります。
退去時の部屋の状況確認(立ち会い)には、必ず自分自身も参加しましょう。
管理会社や大家さんと一緒に部屋を回り、修繕が必要な箇所とその費用負担について、その場で確認します。
もし請求内容に納得がいかない点があれば、その場で質問し、ガイドラインなどを根拠に交渉することが重要です。
万が一、立ち会い後などに不当に高額な費用を請求された場合は、すぐに支払ってはいけません。
まずは、請求書の内訳(明細)を詳しく出してもらい、内容を精査しましょう。
それでも解決が難しい場合は、以下の専門機関に相談することができます。
188一人で悩まず、専門家の力を借りることが大切です。
賃貸物件の退去時におけるプロのハウスクリーニングは、単なる掃除代行サービスではありません。
それは、敷金返還額を最大化し、引越しで多忙なあなたの時間と労力を節約し、不要なトラブルを回避するための「賢い投資」です。
もちろん、部屋の汚れが少なければ自分で掃除するのも一つの選択肢です。
しかし、頑固な油汚れやカビ、タバコのヤニなどに心当たりがある場合は、プロの力を借りることで、結果的に金銭的にも時間的にも大きなメリットを得られる可能性が高いでしょう。
この記事を参考に、ご自身の状況に合った最適な選択をし、気持ちよく新生活の第一歩を踏み出してください。